2009年よりNY在住で、共にファッション業界に身を置くロン毛(Wataru Shimosato)と坊主(Ryo Miyamoto)が綴るブログです。

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ゲストエディター

NYでストリートスナップを撮り続けてきた私から見たファッションの変化【後編】

NYでストリートスナップを撮り続けてきた私から見たファッションの変化【後編】

ロン毛と坊主とニューヨーク ファッション 変化 VETEMENTS

 

 

 

今日の一枚

撮影者 : ロン毛

“1年前に友人を撮った際の写真。当時はこんなにVETEMENTSが流行るとは思っていませんでしたが、破竹の勢いでメジャーブランドの仲間入りを果たし、今では常に話題が絶えないブランドになりましたね。 ”

カメラ本体 : Nikon D3S / レンズ : F1.4 EX DG HSM

焦点距離 : 85mm / 絞り値 : F1.4 / ISO感度 : 100 / シャッタースピード : 640秒


 

今回は先日書いた「NYでストリートスナップを撮り続けてきた私から見たファッションの変化【前編】」の続きということで、後編です。

前編を読んでいない方はそちらもぜひどうぞ。

 

 

さて、今回のファッションの変化ですが、前回の変化が良い変化だとすると、こちらは悪い変化といっていいでしょう。

というのも昨今のファッション、非常につまらなくなっているなというのが5年間ニューヨークでスナップを撮り続けてきた私の感想です。

ここでいうファッションというのは、世間全般の人のファッションではなく、ファッションが好きな人たちのファッションに関してです。

私は今までファッション業界にいて様々なファッション好きな人と関わってきましたが、そのたくさんの関わりの中でファッション好きの人に共通点が見えてきました。

それはほとんどのファッション好きの人々は多かれ少なかれ一般人よりも承認欲求が強いということです。

特に自分の見た目に関しては、ファッションに興味のない人よりも一層にその欲求が強い気がします。

 

 

ファッションライターの南充浩さんの最近の記事『「ファッション衣料を買う」動機がない』にこんな一文がありました。

ところでファッションをすることで得られるベネフィットとは何だろうか?人によってさまざまあるだろうが、多くの男女にとって「異性にモテる」ということは大きなベネフィットの一つではないかと思う。

異性にモテるのがベネフィットであるとすると、それはまさしく承認欲求そのものとも言えるでしょう。

私が見たファッショニスタの共通点であるその欲求は、モテるというものよりも多くの人に認められたいというもう少し広い意味での欲求になりますが、その意識はファッションをする人にとってはおそらく万国共通なんだと思います。

 

南さんはその文の後に、今の若者は昔の人ほどモテることに興味はなく、元来のモテ服というアプローチでは衣類は今後も売れることはないだろうと。

それに代わって、着心地の良さやら着回しの良さやらコストパフォーマンス重視になる。(中略)もっとファッションを売りたいなら、それを着ることで得られる「体験」と「ベネフィット」は何かということを考える必要があるのではないだろうか。

続けて、ファッションを売るためには、モテたいという承認欲求を満たす衣服よりも別のベネフィットが必要だということを述べて記事を締めていました。

私がこの記事の前編で書いた通り人々は自分に合う、丁寧な暮らしを望むようになっているという流れからも南さんの書かれていることはごもっともであるとも思うのですが、私はファッション好きな人に関して言えばむしろ逆だと思っています。

というのも私がスナップを撮り始めてからの5年間のファッショニスタ達のファッションの変化を見ていると、彼らの承認欲求はこの5年でさらに強くなっていると感じるからです。

 

 

この「5年」という歳月の間に起こった変化を振り返ってみると、私たちの生活でガラッと変わったことがあります。

スマホを誰もが所持するようになり、Facebook、InstagramをはじめとしたSNS新時代がやってきました。

もともと一般人よりも承認欲求の強かったファッショニスタ達は、スマホで毎日セルフィーを撮り、服装をSNSにポストしイイネ、コメント、フォロワーを獲得することで快感を得るようになりました。

そしてもっと人に承認されたいという願望が強くなったことが彼らのファッションを大きく変え、多くの服好き達のファッションはSNSに"犯され"、薄っぺらい表面的なものになってしまったのです。

 

 

今まで純粋に好きな服を着ていた人たちが、こぞってSNSにポストした際に見栄えの良い服を選ぶようになっている現象。

具体的にいうと、最近のファッショニスタはロゴやグラフィックプリントなどで誰が見てもパッと何の服か、どこのブランドの服かわかる服しか着なくなってきています。

もっというと、自分がSNSで多くの人に承認され、有名になればなるほど、怖くて誰が見てもどこの服かわかる服しか着れなくなっているのが見て取れるほどになっている。

 

そしてファッショニスタ達の変化に気づいたファッションブランド側も、ここ数シーズン彼らが欲しい服を供給し始めました。

ブランドもビジネスなので売れるものを作るのは当たり前ですが、ブランドの価値、クリエイションの評価に影響を与えかねない、またはブランドイメージを落としかねないブランドすら出てきています。

 

 

私がよく一緒に仕事をするニューヨークのファッション雑誌「StyleZeitgeist」の編集長とこの前話していたのですが、彼も私と同様の意見を述べていました。

StyleZeitgeistオンライン版の『The Rise of Instagrammable Fashion』という記事でもそのことについて書かれていましたので紹介します。

One of the first designers who, perhaps unwittingly, latched onto this phenomenon was Ricardo Tisci at Givenchy. He was doing fine as a designer, but Givenchy did not really take off until Tisci began to put instantly recognizable graphics such as a Rottweiler’s face on tees and sweatshirts. These were an overnight success, becoming first street-style photographer, and therefore Instagram bait. In essence, the Rottweiler became the unofficial Givenchy logo. The floodgates of graphic design were thrown open.

要約すると、ジバンシーのロットワイラーTシャツが出た際に、それをストリートスナップフォトグラファーが撮ったりインスタグラムで拡散されたことで、ファッショニスタなら誰が見てもロットワイラー=ジバンシーと認識するようになった、というような内容です。

 

続けて、こうも書かれています。

In the age where information travels so fast and consumers want to be just a tad more sophisticated, graphics are the new logos. Instagram’s hashtagging mechanism provides a quick way for identifying the graphics to new audience. You don’t have to dig deep, the way a true fashion fan used to, in order to recognize that the Rottweiler is from Givenchy, the vampire embroidery on a varsity jacket is from Saint-Laurent, and that “Live Free, Die Strong” is from Comme des Garcons.

意訳を含みますが、インスタグラムのハッシュタグでイメージが消費者に一瞬で届くようになったことで消費者は手軽にファッショニスタとして見られたい願望からグラフィックに手を出すようになり、今ではわかりやすいグラフィックはブランドのロゴとしての役割を果たすようになった、そして一昔前の服好きがしていたようにファッションを深く掘り下げずとも、誰もがロットワイラー=ジバンシー、ヴァンパイヤの口元の刺繍=サンローラン、Live Free, Die Strong=コムデギャルソン、と一目でわかるようにな服が溢れるようになった、と。

Photo by Nabile Quenum

Photo by Nabile Quenum

 

日々ストリートで人を見ていると本当にその流れを感じるのですが、世界中から何十万人、何百万人とフォロワーを抱えるファッショニスタが集うファッションウィークともなるとそれは更に顕著に現れます。

US VOGUEでは「ファッションウィークでストリートスナップを撮られる方法」という内容の記事がポストされるほどに、ファッショニスタ達は世間から承認されるために服を着るようになっているのです。 → The New Street Style Rules, or How to Get Your Pic Snapped at the Next Round of Fashion Shows

 

有名なファッションブロガーがDHLで$6で売っているTシャツに$330出して着ているのは、本当にそのTシャツが好きで、カッコイイと思って着ているとは到底思えず、むしろ「ほら、今話題沸騰中のTシャツを着てるわよ!VETEMENTS着てる私、最先端でしょ?撮って!撮って!!」と今にも心の声が聞こえてきそうな程です。

Photo by Nabile Quenum

Photo by Nabile Quenum

インフルエンサーたちの写真を見た人たちが同じものを買い求めることで、ブランド側も売れるものやフォトジェニックな"インスタ映えするもの”を作るようになり、それを取り扱うお店も売れるものを見せの入り口に置き、服ではなく"ブランド"を売るという循環が出来ているのがSNS新時代のファッションのリアルです。

それによって街やファッションウィーク、インスタグラム上ではロゴやグラフィック、パッと見でどこのブランドかわかるようなデザインがもてはやされ、違う服を着ていたとしても同じく見えるような、何の工夫もない表面的なファッションが溢れた世界が、それこそ言葉通り"インスタントに"完成してしまいました。

 

 

そういう意味で、東京のレディースのお店、High and Seekのセレクトはブレがないのが凄い。

VETEMENTSをブランド創設時から扱っていますが、最近のVETEMENTSのアイテムを紹介する記事にこんなコメントがあります。

今回も100点以上のピースから、個人的にマストバイなものだけ偏愛バイイング。選りすぐりすぎてショウルームスタッフも目が点、私も自分に呆れています!ちなみに今回もスウェット類は総スルーです。

ご存じない方のために補足しておくと、VETEMENTSのスウェット類は正にフォトジェニックそのもので、売れに売れるためVETEMENTSを取り扱っていてスウェット類を入れない店は世界でも他にないんじゃないかというくらいの偏愛バイイングっぷりです。

Photo by Nabile Quenum

Photo by Nabile Quenum

それを踏まえると、お店のディレクターでありバイイングをしているIKOさんは本当に"服"が好きな人なんだというのが伝わってきます。

私が今までツラツラと書いてきた世界の変化、ファッション業界の現状、今の時代に尚この姿勢を徹底して貫ける人、お店がどれだけの数存在するか。

少なくとも私が知る限り、残念ながらニューヨークにここまで売りに走らず自分を突き通すお店は一つとしてありません。

 

 

私はロゴやグラフィックの服自体を否定したいわけではありません。

ストリートスナップを撮る立場上、そしてそれよりもファッション好きの一人として、承認欲求に犯された表面的なファッ ションが溢れている今のファッションは退屈だと、もっと周りの目を恐れずに自分の好きで服を選び楽しむ人やお店がが戻ってきたらいいなと思っているのです。

 

かっこよくて好きなグラフィックだから着るのか、そのブランドの服だとわかる服を身にまとうことで簡易的にファッショニスタの仲間入りをしたいがためにグラフィックを着るのか。

服が、ファッションが好きな人ならば、どちらが本来あるべき姿なのか、考えずともわかっていただけるでしょう。

 

これが5年間ニューヨークでファッションスナップを撮り続けている私が見たファッションの悪い意味での変化であります。

ファッションネタは他にも書いていますので、前編と併せてそちらも是非どうぞ。

 5年間ストリートスナップを撮り続けている私が思う近年のスナップ事情

 アンリアレイジとサカナクション山口一郎が魅せたデジタル新時代の体験型ショー

 映画「ディオールと私」感想 〜メゾンの生き様と真のラフシモンズ像〜

 

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NYでストリートスナップを撮り続けてきた私から見たファッションの変化【前編】

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